きみは桜姫。
私はその夜、中学にあがったときに買ってもらったスマホを使って、
勇気を出して宙くんに電話をかけた。

小学生の頃貰った電話番号は、大事にとっていた。


プルルルル……


「はい、影山です」
宙くんのお母さんの優しい声が聞こえる。

「あ、あの、お久しぶりです。三芳あかりです」私は緊張していた。

「まあ、あかりちゃん!ちょっと待ってね」

数秒経ち……

「はい。……あかり?」
低い男の人の声がした。え?宙くん?

「宙くん……?」

「そうだよ」

「宙くん、声低くなったね」

「うん。あかり、久しぶり。どうしたの?」

「あ、あの、急にごめんね」

「ううん?」

「あの」
「あの」
声が重なってしまった。

「あ、宙くん、先にどうぞ」

「いや、あかり先に言って?」

「いやいや、宙くんどうぞ」

「……あかり、T私立中に通ってるんだよね」

「うん。宙くんはK中だよね。」

「うん。あかり、夏休みはいつから?」

「明日からだよ!」

「俺も。あの、あかり……夏休みどっか遊びに行かない?」それを聞いて私はドキドキして幸せな気持ちになった。

「行く!」

「どこに行きたい?」

「す」

「す?……す……水族館?」

「うん、水族館!」

「わかった。今週の日曜の1時に、K駅の西口でいい?」

「うん」

「うん。じゃ、西口の鐘の広場で、1時にね」

電話を切り、私は夢見心地でお母さんに報告した。

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