日溜まりの憂鬱
 一般的な家庭料理ではあるが夫の好物を作り、共に口にし、他愛無い話をしながらテレビを観て、0時が過ぎた辺りに就寝する。

 平凡と言えば平凡だ。
 特別なことは何もない。それでもこの気兼ねのない生活は菜穂にとって楽園のように心地がいい。野田さんにはさっぱり理解が出来ないだろう。
 理解して欲しいとは思わないが、否定されたくもない。

 野田さんが絶賛していただけあって、どの料理も全て美味しかった。
 肉料理は牛頬肉のワイン煮込み、魚料理はイワシの香草パン粉のオーブン焼きだった。田舎パンに添えているバターやジャムまでも自家製のものでトリュフを使用したバターは風味が良くお代わりしたくらいだ。

 お腹は満たされた。だが疲弊感を覚え、現地解散したかった。それなのに野田さんから「ちょっと話足りないからカフェでお茶しようよ」と今度はカフェに誘われてしまった。

 午後2時。夕飯の支度をするにしても少し早い。しかも夫の帰宅は午後8時頃だとついさっき口にしたばかりだった。

 断る適当な理由が見いだせず、結局カフェを訪れた。先日出産した山下さんの子供の写真を見せられたが他人の赤ちゃんを見ても特別な感動はない。
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