日溜まりの憂鬱
 これじゃいけない。
 多分、これじゃいけないんだ。
 いつも現実から目を背けていたが、このぬるま湯生活は永遠ではない。

『菜穂ちゃんの才能をこのまま埋没させるのはもったいないと思うのよ。せっかく経験も才能もあるんだし、週に三日くらいなら家庭との両立もできるんじゃない?』

 野田さんの声がまた脳内で響く。
 衒いなく受けた賛辞は面映ゆかったが、同時に嬉しくもあった。
 どうやっても太刀打ち出来なかった相手に必要とされるのは、決して悪い気はしない。不安はあるが、やってみたい気持ちがないわけではない。

「―――やってみようかな」

 食事を食べ終えた修也が皿を重ね椅子から立ち上がった。

「うん。ずっと家に引きこもってるより、少し外に出るほうが菜穂にとってもいいと思うよ」

 ぽん、と肩で弾んだ手のひらに菜穂はこくりと頷く。
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