日溜まりの憂鬱
「―――では採用の合否は追って連絡します。本日はご足労いただきありがとうございました」

 銀縁眼鏡が印象的な人事部長は、菜穂が在籍していた頃は総務部の課長だった。
 部署が違ったためほぼ関わりはなかったけれど、寡黙で人を寄せつけない雰囲気が苦手だった。まさか総務課長が人事部長に昇格しているとは思わなかったし、その彼から面接を受けることになろうとは。

 表情に乏しく淡々とした口調は以前と変わらない。
 怜悧な眼差しを向けられ、菜穂の手は自然に汗ばんだ。”形だけの面接”と信じ込んでいた。野田さんから聞いていた話とは全く違う。

「失礼ながら」とビジネス枕詞こそあったが「以前弊社を退職された時は寿退社でしたが、理由はそれだけでしょうか?」と訊かれた瞬間、思わず言葉に窮してしまった。

 総務部から人事部に異動、昇格するからには、それ相応の洞察力、要するに人を見る目を持っていたのだろう。
 何もかも見透かされたような気色になり、嫌な汗が背中を流れた。
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