日溜まりの憂鬱
 こんなお粗末な話があるだろうか。
 菜穂から仕事が欲しいと擦り寄ったわけではなく、話を持ち掛けてきたのは野田さんだ。迷う菜穂を持ち上げ、その気にさせ、いざ腹を括ればご縁がなかったって……

 さすがにあんまりだ。

「野田さん。私、もうパンツとか靴とか用意したんだよね」

『そうだったの……』

 殊勝な声を出しているが、野田さんにとっては些末なことなのだろう。それ以上の言葉はなく、お互いに気まずい沈黙が訪れた。

『あ、菜穂ちゃん。ごめんね、ちょっと仕事に戻らないといけないから、また近いうちに食事でも行こうね』

「あ、野田さ、」

 言い終える前に、切られてしまった。
 菜穂はスマホを持ったまま、しばらくその場で放心していた。
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