日溜まりの憂鬱
2章
「ここだよー」

 木製のドアを開けた。
 待ち構えていたかのように窓際のテーブル席からすぐに野田さんの声が耳に届く。
 右手をひらひらと振り、朗らかな笑顔を菜穂に向けている。この瞬間から菜穂の全身の神経や筋肉はぎゅっと強張るのだ。

 店員の案内でテーブルに通され、野田さんの正面の椅子に腰かけた。

「素敵なお店でしょ」

「ほんとだね」

 首に巻いていたストールを取り外しながら、店内をぐるりと見渡した。

 野田さんが言う通りだった。
 日当たりが良く、無造作に積まれた煉瓦仕立ての腰壁が洗練されている。
 目線に合わせた黒板にはお勧めコースや本日のデザートが可愛らしいイラスト付きで紹介されていて、全体的に女性好みするインテリアだ。

 麗らかな午後。素敵なイタリアンレストランで女友達とランチ。女性客で埋め尽くされたテーブルからは明るい笑い声が湧き水のように溢れている。

 それなのに菜穂の表情はまるで曇天のようだ。

 自分は浮いていないだろうか。

 まだ5分も経っていないのに既にここから逃げ出したい。気持ちは落ち着かないがどうにか笑みを繕った。

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