レムナント

シドに抱きしめられたまま、少し時が過ぎた。

腕を引かれた時、まるで全ての速度がとても遅く、ゆっくりとシドの胸の中に引き寄せられた気がした。


アリスはどうしたらいいか分からず、動くことが出来なかった。

目の前にシドの胸元があった。

シド殿下の心臓の音が聞こえる…


「…すまない」

しばらくしてシドはそう呟くと身体を離した。

そして、それ以上は何も言わずに部屋を出て行った。


バタンと扉が閉じた音がすると、アリスは力が抜けてその場に座り込んだ。


今、私…シド殿下に抱きしめられた。。



***

シドは目的もなく足早に廊下を歩いた。

暫く歩いたところで立ち止まると、壁にもたれかかった。


一方、アリスはシドの部屋でまだ動かずぼーっとした。

アリスは両掌を頬に当てた。

まだ顔が熱かった。


コンコン


「…ひゃっ?!」

突然部屋がノックされアリスはようやくハッとして立ち上がった。


「あれ?アリス何してるんだ、そんなとこに座り込んで。」

入って来たのはキースだった。


「き、キース。どうしたの。」


「殿下にもう一枚渡す書類があったことを忘れててな。殿下は?」

アリスは慌てて立ち上がるとドレスの裾を払った。

「で、殿下?さぁ、私も見ていないけれど…」


アリスは心臓がバクバク鳴った。


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