婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
鬼灯宗一郎はたしかに跡継ぎを必要としていて、婚前契約書にも子どもをつくる時期について記した項目があるけれど、だからといって、強引に迫るようなことは一度もしなかった。
宗一郎はいつも、ちゃんと奈子を見ていた。
(あの夜のふたりは、うそじゃなかったよね)
笑って、キスをして、大事にすると約束してくれた、そのすべてがなにもかも、宗一郎の策略だったとは思いたくない。
杉咲は仲のいい友だちにするみたいに、奈子にたくさんの質問をした。
「ねえ、週にどのくらいするの?」
「わかりません」
「だって、十日くらい会ってないよね。前回したのはいつ?」
「覚えていません」
「いつもどんなふうにするの?」
「お答えできません」
「宗一郎くんって、けっこうタフじゃない?」
奈子は力なく首を振り、うつむいて黙り込んだ。
もうこれ以上は耐えられそうにない。
杉咲が肩をすくめる。
「でも、私が知ってる宗一郎くんとは違うのかも」
喉元を掴まれたみたいに、突然、胸が苦しくなった。
震える指先をギュッと握りしめる。