婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
奈子は息をひそめて杉咲を見返した。
「どういう意味ですか」
杉咲がため息をついて、上品にほほ笑む。
「あなたは、宗一郎くんにとってお仕事みたいなものだもの。宗一郎くんが私を選ぶことに、そういう理由ってないでしょ。損とか得とかじゃないの」
まるで宗一郎が過去に、杉咲を選んだことがあるかのような言い方だった。
「でもだからこそ、宗一郎くんも一生懸命になっちゃうのかも。あなたはどう思う?」
それからの杉咲は、奈子の返事を期待していなかった。
ただ好きなように追いつめる。
奈子はどうすることもできずに、呆然と杉咲を見ていた。
「あなたがすぐに妊娠できなくても、心配することないよ。気負わないでね。鬼灯宗一郎の子どもを産みたいって女の人は、いくらでもいるもの」
考えてみたこともなかったけれど、もしもふたりに子どもができなかったら、宗一郎はどうするつもりなんだろう。
婚前契約書によれば、奈子は入籍から一年以内に妊娠することになっている。
期限を過ぎても兆しが見られなければ、ふたりは不妊治療に協力する。
だけど、それでも難しかったら?
宗一郎に必要なのは、奈子との子どもではない。
鬼灯家の跡取りだ。