婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~

「私、宗一郎くんにちょっと強引に迫られたら、許しちゃうかも。そしたらたぶん、もう宗一郎くんの記事は書かない」

杉咲が、それこそが解決策だと奈子にささやく。

奈子には否定できなかった。
口をきけば泣いてしまう。

杉咲にだけは、絶対に涙を見せたくない。

奈子がしゃべらなくなったので、杉咲は耳を塞ぎたくなるようなことを遠慮なく次々に聞かせた。

宗一郎と杉咲がいつ出会ったか、どうやって仲良くなったか、どこへ行ったか、なにを話すか、どんなふうに見つめるか。
宗一郎のセックスのやり方まで、杉咲は事細かに説明した。

奈子は吐き気をこらえて目を閉じる。

「比べてみたら、宗一郎くんがなにを考えているのか、参考になるかなと思って。ねえ、あなたのときはどう?」





雲の隙間に月が見える。
街は雨の匂いだけを残し、春の夜に沈んでいた。

眩しいくらいのビルの明かりが奈子のつま先に影を落とす。

奈子は行き交う人の波の中を、ひとりきりでとぼとぼと歩いた。
ぼーっとしているせいですぐに誰かとぶつかりそうになる。
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