婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~

だけどもし、一度でいいから、宗一郎が奈子を待っていてくれたなら。
きっとまだ、恋をしていられたのに。

奈子は膝を抱えてうつむいた。
なにかが聞こえてくるはずもないのに、じっと耳をすましている。

これ以上、なにを悲しんだらいいのかもわからない。

杉咲が宗一郎との関係をほのめかしたこと。
奈子をかわいそうだとあざ笑ったこと。
そうまで追いつめられて、否定さえできなかったこと。

なにもかも苦しかった。

宗一郎を貶める記事を書かれたこと。
そのどれもが正しかったこと。

宗一郎が帰ってこないこと。
結婚をしたこと。
出会ったこと。

宗一郎を好きになったこと。

いったいどこからが間違いだったのか、そばにきてちゃんと教えてほしい。
奈子だけでは、もうすぐ待っていることもできなくなってしまう。

この恋を後悔したくない。

(お願いだから、ひとりにしないで)

本当は、宗一郎に会いたかった。
腕の中に抱きしめ、キスをして、宗一郎を疑った奈子を叱ってほしい。

それから二度と離さないで。

奈子は静かな玄関の隅に小さくうずくまり、たったひとりで息をひそめるようにして泣いた。
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