婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
ホーズキの社長でいることに個人的な執着はないが、鬼灯家の長男に生まれついた以上、宗一郎には闘う義務があった。
心臓が動いているうちは鬼灯グループのすべてに対する責任があって、力を尽くさないわけにはいかない。
ときどき、鬼灯家が宗一郎に課したことの卑しさが恐ろしくなる。
呪われているようなものだ。
もしも宗一郎との対立に固執する以前の多々良であれば、ホーズキの経営を任せることができたのかもしれない。
事実、父はそう考えた。
でも期待はずれだった。
本気で宗一郎を引きずり下ろすつもりがあるのなら、多々良は結婚披露宴にくるべきではなかったのだ。
多々良がもっと賢かったらよかったのに。
おかげで宗一郎はなにもかも予測してしまった。
今の多々良にホーズキを委ねれば取り返しがつかなくなる。
それで宗一郎はTOBが公告されたときのリリースを準備させていたし、買収に対抗するための策もすでにいくつか手の中にある。
宗一郎はたぶん成功する。
いつだって完璧にやり遂げてきた。
とはいえ、今度だけは代償がある。
このままではもっとも大事なものを失くすことになると、宗一郎の直感が警告していた。