婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~

胸が苦しくなるほど思い知らされる。
この先なにが起ころうと決して奈子を手放してはいけない。

奈子がそばにいなければ、宗一郎は今度こそ、呼吸のやり方も忘れてしまう。

宗一郎はそっと奈子の左手を取った。
奈子の細い指がすがるように握り返してくる。

「ただいま、奈子」

宗一郎は小さくささやいて、薬指のマリッジリングにくちづけをした。


◇ ◇ ◇


夢に違いなかった。
宗一郎の腕に抱きしめられている。

奈子は硬い胸に額を押しつけ、規則正しい呼吸の音にじっと耳をすました。
十まで数えてつぶやく。

「おかえりなさい」

それがずっと、奈子の言いたいことだった。

つむじの上にキスをされる。
宗一郎は奈子を抱えたまま歩いていて、優しく体を揺らし、そっとソファに座らせて離れていった。

奈子はとっさに宗一郎の腕を掴む。

(どこにも行かないで)

寂しくなってまつげを伏せる。
そうしていないと、夢が終わってしまうから。

「ここにいるよ、奈子」

耳元に低くささやかれ、奈子はハッと目を覚ました。
宗一郎は現実(そこ)にいた。
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