婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
「奈子、ひとりにして悪かった。きみを傷つけたのは俺の責任だ」
つらそうに眉を寄せる。
「俺が奈子を巻き添えにした」
「巻き添え?」
奈子は思わず聞き返していた。
べつに宗一郎のせいで派閥争いのとばっちりにあったとか、いわれのない迷惑をかけられたとか、そんなふうには思っていない。
結婚したのだから。
鬼灯家に嫁ぐとわかっていた。
宗一郎だって、鬼灯グループ主要企業のあかり銀行頭取の娘だからこそ、奈子をビジネスに引き込んだはずだ。
「本当にすまない。たぶん奈子も読んだと思うけど、俺のことを書いたあの記事は、多々良が親しくしていた——」
「杉咲由香里さんが書いたんですよね」
奈子は早口で遮った。
宗一郎が虚をつかれて目を丸くする。
いくら完璧な宗一郎でも、驚いて当然だ。
奈子だって杉咲のことを知っていたら、日葵か樹にそばにいてもらった。
「……会ったんです」
奈子が投げやりになってつぶやくと、宗一郎は顔をこわばらせた。
「なんだって」
杉咲に追いつめられた奈子では、きっと後ろ暗いことがあるせいだと疑ってしまう。
宗一郎が鋭く目を細めて奈子を問いつめた。
「あの女はここへ来たのか」
奈子は力なく首を振った。
「駅の近くのカフェに寄ったとき。たぶん会社を出たときから、ずっと追いかけてきてたんですね」