婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~

宗一郎が奈子の肘を掴んだ。

「杉咲はきみになにか言ったか」

奈子はつい笑ってしまいそうになった。

(なにか言ったか?)

杉咲に聞かされたことはすべて、今も呪いのように頭の奥を支配している。

「なんでも教えてくれました。宗一郎さんといつ出会って、なにを話して、どこへ行ったか。ふたりで金沢にのどぐろを食べにいったことがあるとか」

宗一郎が顔をしかめる。

「あれは多々良に接待だと呼ばれて行ったら、店に杉咲がいたんだ。ふたりで会ったことなんて一度もない」

奈子にはどうでもよかった。
真実かどうか調べるすべはないし、過去のことは責められない。

そもそも宗一郎が杉咲と会っていたとして、なにが悪いの?
宗一郎は奈子に愛を誓ったわけでもない。

奈子は肘を掴む宗一郎の手を取って、優しくほどいた。
うつむいて低くささやく。

「知りたがってました、婚約記事のこと。宗一郎さんは、いったい誰に書かせてあげたんだろうって」

宗一郎がハッと息をのんだ。
奈子は顔を上げ、宗一郎を真っすぐに見つめる。

もう逃げても仕方がなかった。

「婚約の記事は、宗一郎さんが書かせたの?」

結婚をマネーゲームにするために。
< 128 / 158 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop