婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
気配を消してじっと立っているだけだった佐竹が、耐えかねたように口を挟んだ。
「申し訳ございません、奈子さん。それは私が懇意にしている記者に——」
「佐竹」
宗一郎が鋭く遮る。
奈子に向き合って、はっきりとうなずいた。
「俺が指示した。きみに黙ってあんな記事を出してすまなかった。どうしても奈子と結婚するために、逃げ道を塞ぐような卑怯なやり方をした」
日葵の推測は正しかった。
杉咲が言ったことも。
だけど宗一郎だって、うそをついていたわけではない。
婚約した頃、奈子が真実を問いつめないでいられたのは、まだ宗一郎に恋をしていなかったからだ。
いつでも引き返せると思っていた。
でも、もうできない。
宗一郎は、それがもっとも効率のいい方法ならまた同じ選択をするだろう。
奈子が好きになってしまったのは、そういう冷徹で高慢な男だ。
「なんで」
奈子は聞かずにいられなかった。
「宗一郎さんは、なんで私と結婚したの」
わかりきったことを問いただされ、宗一郎がつらそうに眉を寄せる。
「それは、俺にとって——」
「だめ、言わないで!」
奈子は両手で耳を塞いだ。
後ずさりをして、宗一郎から離れる。