婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
頭がおかしくなりそうだ。
自分で質問をしたくせに。
だけど宗一郎の口からそれを聞かされたら、きっとこの恋を捨てなくてはいけなくなる。
それで奈子は、宗一郎の代わりに早口で答えた。
「私が茅島行高の娘だからですよね、わかってます。宗一郎さんはあかり銀行との関係を強固にするために父と縁戚になりたかったし、私は両親の期待に応えたかった。ただの政略結婚です」
喉を掴まれたみたいに苦しくなる。
「私だって、宗一郎さんを好きになって、結婚をしたわけじゃない」
宗一郎がムッと眉を寄せた。
目をすがめ、奈子をつかまえようと腕を伸ばす。
「奈子、きみはまさか……」
「ごめんなさい」
奈子は宗一郎の手を避け、逃げるように廊下へ向かった。
これ以上、宗一郎のそばにいられない。
混乱していて、なにを話したらいいかわからないし、宗一郎を困らせるようなことを言ってわずらわせたくなかった。
理由がなんであれ、結婚はふたりで決めたことだ。
本気になれば奈子は拒否することができた。
宗一郎のせいにしたくない。
それなのに、このままでは宗一郎を傷つけてしまいそうだった。