婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
「どこへ行くつもりだ」
宗一郎が追いかけてきて、奈子の前に立ちはだかる。
奈子は宗一郎の横をすり抜けた。
「たぶん実家か、日葵のところへ。あとで連絡をします」
「真夜中だよ。きみをひとりで行かせられない」
ずっとひとりでいさせたくせに。
奈子は深くうつむいた。
「お願い、ひとりになりたいんです」
今にも泣きだしそうだった。
唇を噛みしめ、宗一郎に見られないよう顔をそむける。
「ここにいればいい。奈子が落ち着くまで、俺はべつの部屋で待ってるよ」
宗一郎がまた奈子との距離をつめる。
奈子は力なく首を振った。
「宗一郎さんのそばにはいられない」
「だめだ!」
宗一郎がすばやく奈子の肘を掴んだ。
痛いほど強く力を込められ、奈子にはもう振りほどけない。
宗一郎が鋭く声をあげた。
「きみが書き足したことだ! 婚前契約書によれば、奈子は俺を永遠に愛し続けることになっている」
奈子の頬はパッと赤くなった。
今になって持ち出すなんてずるい。
それは結婚式の直前、奈子が婚前契約書に書き足したいと願った項目だった。
宗一郎は内容を聞こうとしなかった。
あとから佐竹がちゃんと契約書に追加したのを見せてくれたからには、宗一郎も了承していることはわかっていたけれど、これまで一度だって口にしたことはなかったのに。