婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~

宗一郎が奈子のつむじにそっとキスをする。

「確認なんだが、バカって俺のことか。生まれて初めて言われた」

奈子は宗一郎の胸にパンチをした。

宗一郎が喉の奥で笑う。
奈子を抱きしめたまま、懇願するようにささやいた。

「許してくれ。奈子がそばにいないと、俺はバカみたいに冷静でいられなくなるんだ」

そんなのうそだ。
宗一郎が冷静じゃなかったことなんてない。

さっきまでなんとか奈子を引き留めようと焦っていたことだって、誰かに聞かされたとしても、きっと信じられなかっただろう。
宗一郎の腕の中にいるのでなければ。

「どうか俺を捨てないでくれ」

奈子はまつげの隙間からこっそり宗一郎を見上げた。
宗一郎が優しくまなじりを下げて奈子を見つめている。

まるで奈子が、とても大事なものかのように。
ほかの誰にもしないでほしい。

奈子は恥ずかしくなって目を伏せた。
宗一郎が指で奈子の顎をすくって上向かせる。

「きみはまだ俺になにか不満があるらしい」

奈子はふいっと顔を逸らした。
これだけは絶対に問いつめないでおこうと意地になっていたのだけれど、宗一郎はたぶん、しまいにはなんでも思い通りにしてしまう。
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