婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
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宗一郎は奈子の規則正しい呼吸を聞いていた。
泣きつかれ、宗一郎の腕にうずまるようにして眠っている。
長いまつげがまぶたの下に影を落としていた。
宗一郎は奈子を失っていない。
奈子がそばにいるだけで、張りつめていた焦りが少しずつほどけていく。
それで宗一郎は、自覚するよりずいぶん緊張していたことを知った。
ずっと多々良を警戒していた。
奈子のそばを離れ、佐竹の忠告も聞かず、ろくに休みもしないで頭を使い、さまざまな策略の先回りをしようと神経を高ぶらせて働きづめていたところへ、ついにTOBを仕掛けられた。
ほとんど予測していたとはいえ、事態は切迫し、対応を間違えることは決して許されない。
さらに宗一郎の失敗のせいで奈子がどこにいるのかさえわからなくなってしまい、滅多にないことではあるが、半ば投げやりになっていたらしい。
鬼灯家に生まれたことが恐ろしいとか、社長でいることに執着はないとか、宗一郎には似つかわしくないことを考えていた気がする。
それでも、奈子だけは手放せないとわかっていた。
宗一郎は腕の中の奈子をそっと抱き寄せる。
思い返してみれば、奈子は宗一郎をいつも正直にさせた。
きれいで上品で賢くて、おっとりした雰囲気に反して頭の回転は速く、でもちょっといじわるをするとすぐに頬を赤くして、ずっと宗一郎を真っすぐに好きでいようとしていた。
茅島行高の娘が宗一郎を見つめて笑ったのを忘れられなくて、本邸の書庫から奈子の好きそうな英米文学を選んで運び、ふたりの家の本棚に並べた。
それまで誰に聞かれても本当のことを答えはしなかったのだけれど、奈子が知りたがったから、法学を専攻した理由を話していた。