婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
効率のいい方法とはいえなかったのに、奈子が宗一郎を好きになってくれるまで、肌に触れるのを待っていた。
ふたりが体を重ねることは婚前契約書で決まっていたし、宗一郎は事実、鬼灯家の跡継ぎを育てることを期待される身分だ。
でも心の底で、決して奈子になにかを強いたくなかった。
婚約記事を書かせるだけで茅島家が結婚を断れなくなるとわかっていて、だけど奈子が望むから、どうか宗一郎に恋をしてほしいと思った。
本当は、真実を隠すことができたはずだった。
宗一郎がそうしようと決めれば、誰にも気づかれず、奈子の逃げ道を塞ぐことだって簡単なのに。
たぶん宗一郎は完璧なやり方を知っていながら、本心では、奈子に許しを乞いたかった。
奈子だけが宗一郎にそうさせるのだ。
ふと、そばを離れていた佐竹がリビングに戻ってきた。
奈子を大事に抱えている宗一郎を見下ろして、静かにつぶやく。
「そのときは、私が必ず、宗一郎さんのお力添えをします」
宗一郎は眉を上げた。
佐竹が少し下がった目尻でにっこりとほほ笑む。
「この先もしも奈子さんを悲しませたら、切り落とされるとのことでしたので」
宗一郎はギョッとして顔をしかめた。
「それはきみ、俺じゃなくて、奈子の力添えだろう。そもそも俺は二度と奈子を傷つけない」
「当然のことです。運転手としましても、怒り狂ったあなたを乗せて車を走らせるのは、今後ぜひ避けたいところですから」
宗一郎は不利になって鼻を鳴らした。