婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
佐竹が深刻そうに眉を寄せてささやく。
「杉咲の件は私が始末をつけます」
佐竹もきっと、奈子を気に入っているのだ。
そうでなければ、たとえどんなに宗一郎が怒り狂っていても、今このときに仕事を離れてはいけないと説き伏せただろう。
杉咲の記事を止められなかったことを悔いている。
でも宗一郎には、もう少し理にかなった優しさがあった。
記事を書いたことについては黙っていてやってもいい。
どうせ多々良の入れ知恵なのだ。
宗一郎の冷徹さを暴きたてれば、勝ち目のないゲームでもほんの少しは優位になる。
あの記事が成立したのは宗一郎の落ち度だ。
それに、効率がいいと判断すれば宗一郎にも似たようなことができる。
多々良よりもっと完璧な方法で。
だけど、奈子を傷つけたことは理にかなわない。
宗一郎は肩をすくめた。
「いや、あとでやり方を教えるよ」
宗一郎がどれだけ寛容だとしても、杉咲が奈子に会って直接痛めつけたことには、正当な理屈がひとつも存在しなかった。
宗一郎は優しく目を細める。
奈子のつむじにそっとキスをしてつぶやいた。
「俺にもジョーカーがあるんだ」
杉咲には制裁を加えなければならない。