婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~

奈子は手を伸ばして宗一郎の黒い髪に触った。
まだ変なふうにはねている。

本当に、起きてからすぐに奈子を探したのだろう。

「……朝ごはん、なにがいいですか」

宗一郎がまぶしそうに目を細める。

「卵焼きかな」

それからふたりで朝食を作った。
宗一郎はなんでもないことで奈子を笑わせ、ときどきふと見つめ、脈絡もなくキスをした。

寝癖をつけながら卵焼きを食べている宗一郎は、奈子の胸をきゅんとさせる。
スーツを着てネクタイを結び、いつもの完璧な宗一郎に戻っていくのを眺めていると、それはそれで、奈子の頭はくらくらした。

仕事に向かう宗一郎を玄関まで見送る。

「いってらっしゃい」

宗一郎は奈子を引き寄せ、つむじにキスをしてささやいた。

「いってきます。今日は早く帰るよ、奈子を待ってる」

奈子は宗一郎をギュッと抱きしめてうなずいた。

ダイニングに戻って、宗一郎が作ってくれた紅茶をタンブラーに入れ、着替えてメイクをして出勤の準備をする。

スマートフォンを確認すると、日葵と樹からそれぞれメッセージが届いていた。
ふたりは毎朝、マーケット情報を送ってくれる。

奈子もなるべく状況を追うようにしているけれど、テレビをつけたり、SNSをチェックしたりすれば、どうしてもホーズキのTOBに関する話題を避けられない。
慎重にしないと、杉咲の記事に言及しているのを目にしてしまうこともあった。

それでも仕事柄、経済ニュースを調べないわけにはいかない。
日葵と樹は気をつかって、奈子が苦しくなったときには無理をしなくていいように、必要なことだけをまとめて市場の動向を教えてくれていた。
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