婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
とはいえ、出勤をすれば容赦なく情報は入ってくる。
奈子はふたりにメッセージを返して、お気に入りのネックレスをつけ、いちばん好きなハイヒールを履き、宗一郎がつめてくれたお弁当を持って仕事に向かった。
空は青く、もうすぐ初夏がやってくる。
◇ ◇ ◇
宗一郎は鬼灯本邸にいた。
書斎のソファに座って長い脚を組み、タブレットを眺めている。
庭園に咲く八重桜の花びらがひとひら窓の隙間に吸い込まれ、宗一郎のつま先のそばに落ちた。
正面には八雲京が座っている。
切れ長の大きな目で、宗一郎をじっと見ていた。
シャープな鼻梁や卵型の輪郭は、京もまた、鬼灯の血族であることを示している。
京は鬼灯中央研究所の社長を務め、同時にホーズキの最高技術責任者も兼任していた。
イギリスの名門大学で量子力学を研究したあと、しばらくは、宗一郎の秘書として働いていた時期もある。
宗一郎が顔を上げると、京は警戒するようにぐっと眉を寄せた。
「で、どうするんですか」
宗一郎はにっこりと笑った。