婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
「やるよ」
京がため息をついてうなだれる。
「正気か? 連休明けの年次開発者会議まで、あと二週間しかないんですよ。俺があなたにそのデータを見せたのは、思い直してほしかったからなんですけどね。なんだって突然、心変わりしたんだか」
京が文句を言うのは当然だ。
ほかにもやり方はいくらでもあるし、この方法を押し通すためには、宗一郎としても計画の大幅な修正をしなくてはいけなかった。
でも、いちばん効率がいい。
宗一郎は肩をすくめた。
「頼むよ、きみは天才だ」
京が鼻を鳴らして宗一郎からタブレットを取り返す。
「あなたも天才ですよ。こんなに俺を振り回す奴はいない」
宗一郎は片方の眉を上げた。
たしかに、京が秘書だった頃までは、宗一郎だけがこの賢いいとこを困らせたかもしれない。
「だけど、きみには妻がいるだろう」
京は口を引き結んで黙り込んだ。
鬼灯家次男の悠成と京は同じ年に生まれ、宗一郎よりもむしろ兄弟らしく育ったふたりなので、人を食ったような性格には似たところがある。
悠と京が一緒にいれば、厄介なことばかりを引き起こしてきた。
とはいえ悠成よりも素直なぶん、京にはまだかわいげがある。
宗一郎は京の正直なところを気に入っていた。