婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~

婚約を決めた夜のことを、宗一郎は忘れてしまったかもしれないと思っていた。
あれはただの商談で、契約さえ成立したなら、奈子がなにを好きかなんてきっと気にも留めていないと。

黙り込む奈子を宗一郎が優しく引き寄せ、ふかふかのソファに座らせる。
奈子は顔を上げ、宗一郎を見つめ返した。

「俺はきみの好きなものを知っている。まだひとつだが」

だけどこの小さな書斎は、ふたりの宝石箱にしまう最初のひとつになる。

奈子はほんの少しためらい、祈るようにささやいた。

「宗一郎さんは、どうして法学を専攻していたんですか」

宗一郎が器用に片方の眉を上げる。

「佐竹に聞いたのか」

奈子がうなずくと、宗一郎は小ぶりのソファでは窮屈そうに脚を組んだ。
手を伸ばせば長いまつげに触れられるほど近くにいる。

「世界で最初の株式会社が成立したのはいつ頃のことか知っているかな」

「一六〇二年のオランダ東インド会社です」

奈子はよどみなく答えを言い当てた。
宗一郎がうれしそうにほほ笑む。

「きみには簡単すぎたな。では、オルデンバルネフェルトというオランダ人のことは?」

奈子はきょとんとして首を振る。
あまり聞き覚えのない名前だった。
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