婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~

たとえ国中を敵に回しても、好きになった人にはきっと生きていてほしい。
そばにいられるなら命乞いだってする。

だけどもし、彼がそれを望まないとしたら。

つらすぎる選択に奈子は思わず目をしばたいた。
腕を掴まれ、宗一郎の隣に引き上げられる。

顔を上げると、宗一郎が恐れのない真っすぐな眼差しで奈子を見つめていた。

「俺はきみにそんな選択はさせない」

不敵に断言し、奈子をそっと胸に抱き寄せる。
高慢で根拠のない約束だと、宗一郎だってわかっているはずだ。

でも肘を包む大きな手のひらは力強く、不思議なほど優しかった。
宗一郎の規則正しい鼓動が頬に伝わる。

奈子は手の中の鍵を大事に握りしめた。

オルデンバルネフェルトとマリアに起こったことは事実で、悲しい結末だけど、遠い過去の出来事だ。
宗一郎がそんな窮地に立たされるわけではない。

それに、高校生の頃の宗一郎がオルデンバルネフェルトへの尊敬から法律を学ぶことを決めたのだとしたら、意外とかわいいところがある。
いじわるな話し方をしたのは、もしかしたら宗一郎なりの照れ隠しなのかもしれない。

奈子の顔から緊張が消え去ると、宗一郎は満足そうにうなずいた。

「ああ、それから」

額に小さなキスをされる。
きょとんとする奈子を見下ろして、宗一郎がいたずらっぽく笑った。

「俺も緑色が好きだよ」
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