婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
奈子は優しく笑った。
「"あなたの好きにしていい"と。そのおかげでラグネルにかけられた呪いは解けて、昼も夜も美しくいられるようになる。私、ずっとガウェイン卿に憧れていたんです」
「つまりきみは、俺のほうがラグネルだと言いたいのか」
宗一郎が不服そうに顔をしかめる。
奈子は目尻を下げて宗一郎のコートにくるまった。
「ガウェイン卿はアーサー王のために仕方なくラグネルと結婚したけど、でも私は、いつか好きになった人と結婚がしたかった。泣きたくなるような恋をして、エメラルドのエンゲージリングでプロポーズされて、新婚旅行はグレトナ・グリーンに行くんです」
宗一郎がサッと顔色を変え、鋭く目を細めた。
「ほかに好きな男がいるのか。悪いが、きみは俺と結婚する」
奈子は呆れて肩をすくめた。
ほとんど欠点がないはずの宗一郎が、肝心なところで器用にいられないのはどうしてなんだろう。
婚前契約書のことも、婚約記事のことも、本気で奈子を騙して利用しようと思うなら、疑われずに済ませる方法はいくらでもあったのに。
宗一郎はやり方を知っている。
ときどき、完璧さに抗うようにそれを拒んでいる。
(でも、まあ、いいの。ここへ迎えにきてくれたから)
今はまだ、宗一郎の好きなほうで。
「違います。私は宗一郎さんと結婚するつもりで、あの日紫染邸へ行ったんです。ほかに好きな人なんていません。そうじゃなくて、私は、私が言いたいのは……」