婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
外商員が数日中に宗一郎のもとへ届けると約束し、テーブルに並べられたたくさんの指輪をにこにこしながら回収して、足取りも軽く帰っていく。
奈子の荷物をひとまずゲストルームに運び入れてしまうと、佐竹もふたりを残して家を出ていくった。
静かになったリビングを見渡し、宗一郎がぽつりとつぶやく。
「シェフでも呼ぶか」
奈子は目を回しそうになった。
必要とあれば誰でも家に呼び寄せるのは、鬼灯家の習わしだろうか。
横窓のそばにあるウォールクロックを見上げる。
まだ午後三時半だ。
宗一郎がふらふらとキッチンへ近づき、壁に埋め込まれた大きな冷蔵庫のドアを何気なく開けた。
ムッと眉を寄せ、きまりの悪そうな顔をする。
「しまった、なにもない」
奈子は思わず笑っていた。
「宗一郎さん、おなかが空いているんですね」
もしかしたらお昼ごはんを食べ損ねたのかもしれない。
宗一郎と佐竹はなにも言わないけれど、年末の忙しい時期に入籍も引っ越しもすると決めたからには、ここ数日はかなり強引に仕事を調整してきたはずだ。
「きみはなにが食べたい? 慌ただしいが、入籍日だ。フレンチでも中華料理でも日本食でも、好きなものを用意しよう」
「それなら、ふたりで作りませんか」
冷蔵庫のドアを閉め、きょとんとした宗一郎が振り返る。