婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
奈子は両手をギュッと握りしめて背中に隠した。
「今から一緒にスーパーへ行って、買い物をするんです。冷蔵庫がいっぱいになるくらい。婚前契約書によれば、家事はふたりで分担することになっていたはずですから」
宗一郎は呆れるだろうか。
どんな豪華な食事より、ただふたりきりでいたいなんて、恋に浮かれた少女みたいなことを願っている。
宗一郎が奈子の肘を掴み、緊張して固くなった手を探りだした。
指を解き、引き寄せた手首の内側にキスをする。
頬を染めた奈子を見下ろして、いたずらっぽく笑った。
「では、花嫁の仰せのままに」
鬼灯家には家政婦がいて、執事の佐竹も料理上手だと聞いたことがある。
いくら本邸から離れて暮らしていても、宗一郎のためなら誰もが喜んで腕をふるっただろうし、お腹が空いて家にシェフを呼ぼうかと考えるくらいだ。
ひょっとすると宗一郎は炊事が得意ではないかもしれないと、奈子はほんのちょっと期待した。
鬼灯宗一郎にだってひとつくらいは欠点があるべきだ。
つまるところ、奈子は宗一郎を侮っていた。
ふたりで近所のスーパーへ買い物に行き、空っぽだった冷蔵庫がいっぱいになると、宗一郎はさっそくキッチンに立って、奈子の思惑をよそに天性の器用さを披露した。