婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
口のきけなくなった奈子は、宗一郎の手を握ったままバスルームにいた。
ハイウエストのパンツから薄手のニットを引っ張り出される頃になって、ようやく正気に戻る。
慌てて宗一郎を追い出し、頬を膨らませながらドアの向こうの笑い声を聞いた。
いいようにからかわれている。
奈子は両手に顔をうずめた。
取り乱さずにいたかったけれど、宗一郎には当分敵いそうもない。
足音が遠ざかると、奈子は深く息をついてドアに寄りかかった。
いつの間にか、アパートから持ってきたお気に入りの化粧品が棚の上にきちんと揃っている。
ゴールドの水栓がついたピカピカの洗面ボウルの横には、着替えとバスタオルが並んでいた。
ブランドシャンプーとボディソープ、それからバラの花びらの形をしたバスペタルが、中央にある大きなバスタブのそばに飾られている。
広いバスルームの角はガラスドアで隔てられ、オーバーヘッドシャワーがついたシャワースペースになっていた。
家を案内されたときはあまりの贅沢さに圧倒されるばかりだったけれど、改めて眺めてみると、思わずほほ笑んでしまう。
これから毎日このバスルームを満喫するとしたら、些細な怒りや悲しみは忘れてしまえるだろう。