婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
奈子は腕に引っかかったままになっていた宗一郎が半分脱がせたニットを丁寧にたたみ、ふと用意された着替えを広げて鏡に映した。
華奢なキャミソールとボトムスはとてもロマンチックで、美しいガウンの裾には繊細なレースが縫いつけられている。
生地はすべてピンクベージュのシルクだった。
クリーム色のライトに照らされたタイルの上を、裸足になって歩く。
泡立つジャグジーバスに赤と桜色の花びらを浮かべ、すべりだし窓を押し開ければ、隙間から淡い六花がひらひらと舞い込んでくる。
奈子はすっかりうれしくなって、また降る雪を掴んで遊んだ。
シャワーを浴びてバラの花片に体を沈め、ちょっとずつ落ち着きを取り戻していく。
思考がまともになってきたら、自分が陥っている深刻な状況もちゃんと把握できた。
鼻先までお湯に浸かって考え込む。
(ノーメイクで宗一郎さんに会ったことって、今までに一度もない)
普段からそれほど濃いメイクをしているわけではないが、だからといっていきなりすっぴんを見せるのはためらわれる。
スキンケアをして髪を乾かし、このままベッドに隠れてしまおうかとまで思い悩んで、結局は宗一郎を探す決心をした。
シャワールームはほかにもあるけれど、宗一郎はここが空くのを待っているかもしれない。
それに、ルームウエアをプレゼントしてくれたことにもお礼を言わなくてはいけなかった。
思い切って回廊を引き返していくと、リビングダイニングからぼんやりとした明かりがあふれているのが見えた。
緊張しながら部屋を覗く。