婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~

宗一郎は長い脚を投げだしてソファに座り、静かに目を閉じていた。
ダークネイビーのトレーナーとジョガーパンツに着替えていて、黒い髪がまだ少し濡れている。

奈子は足音を立てないようにそっと近づいて、夫の寝顔を覗き込んだ。

本当に、ため息をつきたくなるほどきれいな顔立ちをしている。

奈子はいつもついアーモンド型の目に釘づけになってしまうけれど、頬骨が高く、唇の形はきれいだし、鼻梁もとびきり美しい。
ダイニングから届くペンダントライトの淡い光でさえ、伏せられた長いまつげの影を作っていた。

規則正しい呼吸を、なんともなしに数えてみる。

しばらくそうしてぼんやりと見つめていると、突然、宗一郎がパチリと目を開けた。
驚いて離れようとした奈子の肘を掴み、深刻そうにつぶやく。

「きみはかわいいな。卵みたいだ」

いったいどういう意味かと問いただしたかったが、宗一郎がそれより先に立ち上がり、奈子の腕を引いた。
リビング階段を上って、フットライトに照らされた廊下を進む。

宗一郎が奈子の手をぎゅっと握って笑った。

「ちゃんとあったかくなってる」

それで、奈子の肌はまた少し熱くなった。

「このルームウエア、宗一郎さんが準備してくれたんですよね。ありがとうございます。すごくすてきです」

宗一郎がちらりと振り返って目を細める。

「うん、いいな」

のぼせたわけでもないのに、奈子は目眩を起こしそうだった。
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