婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
「たしかきみ、明日で年内の出勤は最後って言ってたよな」
「そうです。少し長めにお休みをいただけたので」
年末に入籍することを伝えたら、上司が気をつかって休暇を取るようすすめてくれたのだ。
奈子は背の高い宗一郎の横顔をこっそり見上げた。
宗一郎も、ちょっとでもゆっくりできたらいいのだけど。
「それなら、仕事が終わったら迎えにいく」
「迎えに?」
奈子はきょとんとして首をかしげた。
どこか行かなければいけないところがあるのだろうか。
それとも、紹介したい人がいるとか。
宗一郎の母親や祖父母には挨拶を済ませ、父親にも花を手向けることができたけれど、実はまだ弟たちには会えていないのだった。
宗一郎と同じように忙しいふたりだから、なかなか時間を調整できないでいるらしい。
それか、大学時代の友だち。
もしくはいとこの八雲京かも。
結婚したばかりだそうで、夫人にもぜひ会わせてほしいとお願いしてある。
考え込む奈子を見下ろして、宗一郎がほほ笑む。
「食事でもしよう、ふたりで。映画を観てもいいし、バーに寄ってもいいし、水族館まで行ってもいい」
奈子の顔を覗きこんで、秘密を打ち明けるようにささやいた。
「つまり、きみを口説いてる。俺は奈子とデートがしたい」
宗一郎から洗いたての髪の匂いがする。