婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
頬を赤くした奈子は、慌てて本棚から目を逸らす。
「ごめんなさい。英文学を専攻していたので、気になって」
「いつか本邸の書斎を案内しよう。あれはただの飾りなんだ、退屈で仕方がないときに読む」
宗一郎がいかにもうんざりした顔をするので、奈子は思わず笑っていた。
幼い頃、パーティのさなかに退屈を持て余し、庭園の見える部屋でソファに横たわって密かに本を読み耽る宗一郎は、きっとため息をつくほど美しい。
「本棚にあるものをみんな読んでしまったんですか」
宗一郎が肩をすくめる。
「あらすじを話そうか。三分でいい」
ふたりは大きなテーブルで向かい合わせに座ると、シャンパンで乾杯し、次々と運ばれてくる料理を楽しんだ。
宗一郎はすべての本の概要を覚えていた。
しかも興味を駆り立てるように話すので、奈子は結末まで聞いてしまわないために慌てて制止しなければならなかった。
宗一郎の話し方は洗練されていて、低い声は気品に満ち、食事の作法も完璧で、ほんの少しの沈黙さえ優しい。
いつの間にか奈子の緊張はやわらぎ、フルコースを前菜からデザートまでしっかり味わっていた。
おいしい紅茶で上機嫌になる奈子を、宗一郎が眩しそうに見つめる。
庭園はすっぽりと夜に包まれ、空には星が浮かんでいた。