婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
これは誰にも打ち明けていない秘密だけど、近頃、宗一郎がどこかの国の王子様みたいに光っていることがある。
王子様はちょっと不本意そうに肩をすくめた。
「でも、今から紹介する奴には気を遣わなくていい」
奈子は苦労して宗一郎から目を逸らし、前を向いた。
ハッとして姿勢を正す。
すらりと背が高くバランスのいい体躯でタキシードを着こなした男性が、追いかける女の人たちをやんわりと振りきって歩いてくる。
それから、奈子を見下ろして人懐こくほほ笑んだ。
「はじめまして、宗一郎の弟の悠成です。ご結婚おめでとうございます」
奈子は恐縮して頭を下げる。
宗一郎の弟とまともに口をきくのは初めてだった。
「ありがとうございます。茅島行高の娘の奈子と申します。今までご挨拶にうかがえず、本当に申し訳ございませんでした」
「ああ、それは兄貴のせいだから。気にしないで」
悠成が含みのある言い方をするので、奈子はこっそり隣に立つ宗一郎を見上げた。
素知らぬ顔をしている。
悠成がさらに言い足した。
「そのドレス、兄が選んだんじゃないですか。いや、作らせたのかな。お似合いですね」
奈子はきょとんとしてうなずく。
「そうですけど、よくわかりましたね」
宗一郎が披露宴のためにデザインさせたのは、濃緑でハリのあるシャンブレーオーガンジーのモノマテリアルドレスだった。
スカートの揺れが上品で美しく、オフショルダーのロールカラーにはピンクやイエローやラベンダーの色鮮やかなクチュールフラワーが丁寧に縫いつけられている。
ガーデンウエディングによく映えて、奈子もお気に入りだった。