婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~


◇ ◇ ◇


葦原真白(ましろ)は東堂に並ぶ旧財閥系の家柄にあり、祖父の京十郎と親しく、両親を恐縮させながら鬼灯兄弟のおむつを替えてやったことさえあった。
そのせいで、宗一郎たちのことをいつまでも乳飲み子だと思っているらしい。

真白が警告したのは、案の定、多々良亮のことだった。

宗一郎と悠成は素直に礼を言ったが、ふたりにほとんど迫るものがないせいで、真白も心配しているのだろう。

だけど鬼灯家が鎌倉の時代から連綿と血族を絶やさずにいるのは、ひとつにはその冷淡なほどの情のなさゆえのことだった。

なにものにも執着せず、いつでもいちばん理にかなった方法を選ぶ。

なかでも宗一郎は、兄弟のうちでもっとも色濃く鬼灯の血筋を受け継いでいた。

大蛇のように冷酷で、獲物が毒で動けなくなっていくのをじっと待っていられるし、呼吸の律動を探って、息を吐くたびに小さくなる肺をちょっとずつ絞めつけてやることもできる。

多々良がもう思うように息を吸えないでいることを、宗一郎はわかっていた。

父親の亡きあと多々良がホーズキの社長を務めていたからといって、宗一郎はべつに、それを恨んだことなど一度もなかった。
だけどもし多々良の方針に従って組織再編を行なっていたなら、ホーズキは二度と引き返せなくなるほどの傷を負うことになっただろう。

多々良は説得に応じなかった。
鬼灯グループを守るために宗一郎に残された選択肢は、任期を満了する多々良に代わって社長に就任することだった。
< 82 / 158 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop