婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
ただ、そうと決めたら宗一郎の行動はすべてが的確で、なにもかもあまりに思い通りにことを進めてしまうせいで、なにかとんでもない権謀のように映るのだろう。
引きずり下ろしただとか、策略をめぐらせただとか批判されても、宗一郎にはどうすることもできない。
なぜそんな無慈悲なやり方を知っているのか、ときどき自分でも恐ろしくなるのだから。
宗一郎はラグネルではない。
呪いは解けないし、ずっと美しくはいられない。
でも奈子がそれでいいと言った。
だから宗一郎は、どんなに深く冷たい海にも潜っていけるし、また岸辺を見失わずに戻ってこられる。
汀にはいつも奈子がいる。
宗一郎が見つけだしたとき、花嫁は石壁のアルコーブにいた。
同僚の壬生日葵と肩を寄せ合うように小さなソファに座っている。
傍らには樹宏太が立ち、背中を丸めてふたりの手元を覗き込んでいた。
日葵が奈子に次から次へと名刺を渡していく。
推測するに、抜け目のない日葵が披露宴の出席者から集めたものだろう。
聞いた話によれば、業界でもうわさになるほど優秀なディーラーだそうだ。
奈子は日葵の説明に耳を貸しながら、呆れとも感心ともつかないような顔で名刺の束を眺めている。
日葵がワーカホリックを発揮するのは一向にかまわないし、ふたりが奈子のそばにいてくれるのもありがたい。
ただ、問題は樹宏太だ。