婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
奈子はひとまず取り調べをやめにして、心配そうに眉を下げた。
「もういいんですか」
宗一郎は急に、奈子をおいていったことを後悔した。
真白が多々良のことを話したがっているのがわかっていたから、奈子には聞かせたくなかったのだ。
でも連れていってやればよかった。
真白がいかめしい顔をするせいで、ずっと気にしていたのだろう。
「ああ、ただの小言だよ」
宗一郎が答えたとき、背後で小さなざわめきが起こった。
とっさに奈子をそばに引き寄せる。
振り返ってみると、割れた人混みの隙間を多々良亮が堂々と歩いてくるところだった。
宗一郎は口を引き結んでため息をこらえる。
厄介なことになったものだ。
真白が鬼の首を取ったように説教するだろう。
多々良は宗一郎より頭ひとつぶん背が低く、肩の幅はひとまわり大きい。
真っすぐな眉と四角い顎が意志の強さをうかがわせる。
一年前に比べてほんの少し痩せたせいで、頬のシワが際立って見えた。
多々良の登場で周囲が静まり返る。
宗一郎は背すじを伸ばしてほほ笑んだ。
「多々良さん、お久しぶりですね。今日は海外出張のご予定で、日本にはいらっしゃらないとお聞きしましたが」