婚前契約書により、今日から私たちは愛し合う~溺愛圏外のはずが、冷徹御曹司は独占欲を止められない~
「それから、風邪を引かないように。ソファじゃなくて、ベッドで寝てくれ」
奈子は宗一郎の胸に片頬を押しつけながら、ムッと顔をしかめた。
きちんと結ばれたオレンジブラウンのネクタイを掴む。
鍵をかけるときの癖まで気づいている宗一郎が、あの夜どうして奈子がリビングで寝ていたのか、わからないはずはないのに。
「それから、俺が奈子に——」
奈子は宗一郎の忠告を遮ってネクタイを手繰り、すばやくキスをした。
虚をつかれた宗一郎が数秒停止する。
奈子はその隙に下唇に噛みついたり、猫がじゃれるみたいに引っ張ったりした。
宗一郎を思い通りにできるうちに、好きなように唇を押しつけて口を塞ぐ。
しばらくして正気を取り戻した宗一郎は、奈子のかかとが浮いてしまうくらい強く体を抱き寄せた。
キスはすぐに宗一郎のものになる。
奈子の肩にかかっていたバッグが床の上にすべり落ちた。
目眩がして、うまく立っていられなくなる。
ネクタイを握っていたはずの奈子の手は、気がつくと宗一郎の胸にすがりついていた。
背中は玄関のドアに押しつけられている。
宗一郎はドアに片方の肘をつくと、大きな手で奈子の顎を掴んで上を向かせ、ため息ひとつも許さないようなキスをした。
口を開けさせて、舌を押し込み、頬の内側をゆっくりと探る。
ようやく奈子に息継ぎをさせながら、唇の上に低くささやいた。
「それから、俺が奈子に会わないようにしていたのは、こんなキスくらいじゃ離してやれなくなるからだよ」