堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く
*◇*◇*
そこからの話は本当にあっという間だった。
彩芽はタロちゃんを支えるために仕事を辞めることにしたが、タロちゃんにそれを話した翌日には、タロちゃんがくらきを訪れ副社長と話をしていた。
「四月から松野には、結城の専属秘書をしてもらおうと思ってたのに!」
結城さんは二号店の支店長になることが決まっていたのだが、その秘書に彩芽が内定していたという。
「それは悪かった。でも他の人を探してくれ」
いとも簡単なことのように言うタロちゃんに、副社長は怒りをぶつけていた。
「おまえが連絡を絶ってたときに、松野を励ましてたんは俺やぞ。感謝してほしいぐらいやのに、俺の大事な秘書をさらっていくな!」
「そうか。それはありがとう。でも彩芽は俺の妻になることが決まったから、お前の秘書は辞めさせてもらう。悪いな、倉木」
またもやあっりとした返事が返ってきて、副社長はがっくりと項垂れる。
「タロウ…。お前なんでも一直線すぎるぞ。猪突猛進という言葉はお前のためにあるようなもんやな」
タロちゃんは、顎に手を当ててしばらく考えていたが、思いついたように提案をした。
「どうしても困ると言うなら、姉をしばらく来させるが。四月からは新次郎に付く予定やったが、次の秘書が見つかるまで倉木のところに貸し出ししてもかまわん」
「葵さん!?いや、それは遠慮しとく」
慌てたように副社長は言った。
学生の頃、タロちゃんとつるんでいた副社長には、葵さんに頭が上がらない何かがあるらしい。
「若気の至りというやつや」
タロちゃんは笑って教えてくれた。