堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く

引継ぎはきっちりしたいと申し出て、くらきを辞めるのは五月末になった。

結婚式が六月の初めなので、ギリギリまで働くことになるが全然かまわない。

美鈴さんは、百合ちゃんに続いて彩芽まで辞めることになったので、とても残念がってくれた。

でも、秘書課には新たに三人が増員され、教育や引継ぎで大騒ぎだ。しっかりした人たちが来てくれたので、彩芽も安心し、くらきでの残りの日々を楽しむことにした。

タロちゃんとの結婚が決まって、一番大騒ぎをしたのは東山第三班の皆さんだ。町内に『祝 ご結婚』という垂れ幕をするかどうかで揉めたと聞き、絶対に止めるように宮本さんに強くお願いした。

悪乗りした『いわくら』の若旦那が提案したと聞いて呆れかえる。

副社長といい、若旦那といい、タロちゃんの悪友たちは、これからも絶対彩芽の頭痛のタネになる。負けるもんかと改めて拳を握った。

結婚の報告をした彩芽とタロちゃんに、「人生の最後にまたこうして『京泉』とつながりができるなんて、本当に不思議なご縁だこと」と祖母はしみじみと漏らした。

「十喜餡は、タロちゃんと一緒に守っていくからね」
祖母の手を優しくさすると、祖母は嬉しそうに何度も頷いた。

「彩芽さんと十喜餡は、一生大事にします」
真面目なタロちゃんは律義にそう約束した。

…私とあんこは同列なのね。

まあ、いいか。

これからの生活が、あんこのように甘く飽きのこないものになりますように。

彩芽はそっと祈った。

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