堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く
彩芽は自分で着物を身につけることができない。
いつか習いに行こうと思っているが、こうやって祖母に着付けてもらうのが好きなので、なかなか実行に移せない。
紬の着物を着せてもらいながら、会社のこと家のことなど、いろいろと話す。
祖母は、「それはよかったねぇ」とか「大変だったねぇ」などと言いながら、ニコニコと話を聞いてくれる。この時間が楽しいのだ。
髪は自分で結い上げ、最後に一つ玉の深紅のかんざしをつける。このかんざしは、昨年『くらき』のイベントで買ったもの。洋服にも合わせやすいので気に入っている。
お店は十一時開店。のれんを出すとすぐにお客様が入ってくる。
今の時期は、ぜんざい、おはぎ、だんごの三種類の提供だ。
五月を過ぎるとかき氷を出すが、このかき氷が最近のブームに乗って人気が高い。
まつので出しているかき氷は二種類だ。
『宇治』は、お客様の前でシャカシャカと抹茶を点てて氷にかけたもの。
お客様は、目の前で抹茶を点てると喜び、歓声を上げる人も多い。特に人気なのが『宇治金時』で、祖母特製のあんこがトッピングされている。
『いちご』は、いちごの原型が残った濃厚なシロップを氷にトロリとかけたもの。もちろん、シロップは祖母の手作りだ
どちらも、アイスクリームや白玉、ミルクのトッピングができるようになっているが、味は『宇治』と『いちご』の二種類しかない。それでも、わざわざ遠くから来てくれるお客様もいるのだ。
今日も、東山第三班の皆さんのお陰で、開店早々お客様が続々と入ってくる。
普段、会社では事務の仕事をしているので、接客も楽しい。
彩芽はウキウキと働いていた。