堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く
彩芽は鋭い眼差しに射抜かれて、動けずにいた。
こんな怖い人のところにおばあちゃんを連れてくることなんてできるかっ!!
どのように返事をしようか迷っていると、店内の様子がおかしいと思ったのか祖父が出てきた。
「どないかしましたか?」
不思議そうに言う祖父に、タロウさんはもう一度「この餡を作った人を呼んでください」と言った。
「ちょいとお待ちくださいよ」
祖父は素直に祖母を呼びに行こうとする。
「ちょっと!おじいちゃん」
慌てて声をかけた。
こんな状況で呼びに行くか?
のん気にもほどがある。
ここは彩芽の出番らしい。
こんな時のために、ここにいる。
祖父母を守るのは彩芽の大切な仕事だ!
「何の御用でしょうか?」
毅然とした態度で彩芽はタロウさんと対峙した。
キッとタロウさんを見据える。
するとタロウさんは、珍しい生き物でも見るように、まじまじと彩芽を見つめた。
まるで、ここに人がいたなんて初めて気づいたとでも言うように。
彩芽は160センチあるので、そんなに小さくはないけれど、大きなタロウさんに見下ろされるとひるんでしまう。
こ、ここは威嚇のためにファイティングポーズでもするところ?
構えようかと一瞬悩んだ彩芽を見て、若旦那は慌てて、「おい!タロウ。不躾すぎるやろ」と、タロウさんを叱った。
そして、すまなそうに彩芽に向かって言った。
「彩芽ちゃん、こいつは和菓子屋なんや。多分、トキさんのあんこに興味を持ったんやと思う」
タロウさんを見ると、真面目な顔で大きく頷いていた。
それを先に言えっ!
若旦那がいてくれなかったら、誰か人を呼ぶところだった。東山第三班の人たちは、すぐに駆け付けてくれるから。
すると、祖父が戻ってこないのを不審に思ったのか、店の奥から祖母が出て来てしまった。
「どうしたの?」
あーあ、出てきちゃったよ。
彩芽はがっくりと項垂れた。
「この餡を作ったのはあなたですか?」
タロウさんは大真面目な顔で問いかけた。
「そうですけど、何か?」
小首をかしげながら、祖母はのんびりと受け答えをする。
本当に祖父母はのん気だ。彩芽のいない時、二人でちゃんとやっていっているのか?危機管理能力に疑いがあるのは間違いない。
そんな彩芽の心配をよそに、祖母はニコニコと笑っている。
タロウさんは、祖母をじっと見て、真剣な表情のままスッと立ち上がった。鋭い目つきのまま、祖母を見下ろしている。
祖母をかばおうかと思った瞬間…
「わたしを弟子にしてください」
タロウさんは深々と頭を下げた。