堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く
想像の斜め上を行くタロウさんの行動に、全員でしばらくフリーズする。
タロウさんは頭を下げたままだ。
「ごちそう様」と席を立つお客様の声で、ハッと時間が動き出した。
慌ててレジに向かう。
「ありがとうございました」
お客様の対応を終えて見送ると、また新しいお客様が入店してくる。
よりによってこんな時に!
東山第三班の皆さん、ストッープ!
大声で叫びたいところだ。
祖父は奥に戻り、彩芽はお客様の対応を続けるしかない。
祖母は少し困ったような顔をしていたが、場の流れのまま同席してくれた若旦那も交えて、腰を据えてタロウさんの話を聞き始めた。
気になるので三人の様子をちらちらと伺うが、話までは聞こえない。お客様が続いて入店してくるので、近くに行くこともままならなかった。
ただ、祖母の表情が和らいできているのがわかる。いつもの穏やかな笑顔に変わっていくのを見て、少し安心した。タロウさんは真剣な表情のままで、若旦那は苦笑いをしているけれど。
話がついたのか祖母は席を立ち、奥に戻りながら彩芽に声をかける。
「彩芽ちゃん、若旦那のおはぎの用意をお願いね。八個ほどお包みして。お代金は頂かなくていいから」
「おばあちゃん、大丈夫?」
心配そうに声をかけたが、「大丈夫よ」と笑いながら返事が返ってきた。
おはぎの準備をしていると、割烹着を外し、羽織を羽織った祖母が出てきた。
「ちょっと出てきます。彩芽ちゃんは早めに帰りなさいよ」
そう言い残して、タロウさんと出ていった。