堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く
翌日の月曜日、まだ電車は混んでいた。
おはぎを入れた袋が邪魔にならないように、気をつけながら電車に乗り込む。
結局、昨夜は祖母と連絡がつかないままだった。彩芽も今日は仕事だが、だからといって放っておくことはできない。母に事情を説明し、様子をみてきてくれるように頼んである。
電車に揺られながら、思いを馳せるのは〝タロウさん〟のことだ。
変わった人だったなぁ…
和菓子屋さんって、和菓子職人ってことかな。武士兼和菓子職人?
うーん。タロウさんは謎に包まれたままだ。
会社について、いつものルーティーン作業をしていると、美鈴さんが出勤してきた。
「おはよう、彩芽ちゃん」
声にいつもの張りがない。
「おはようございます。美鈴さん、お疲れですか?」
「わかる?」
美鈴さんはデスクにぐったりともたれかかった。
「今日から翔が本格的に学校に通い始めたんだけど、朝からテンションが高すぎてぐったりよ。起きた瞬間からランドセルを背負ってるし、もう大変」
容易に想像がついて、吹き出してしまった。小学一年生の登校初日なんて、そりゃ張り切るしかない。
「学校はしばらく午前中の早い時間に帰されるし、学童クラブは様子を見ながら始める感じだし。保育園より大変かも」
デスクに突っ伏すようにぐったりしている美鈴さんの背中を撫でる。
「お疲れさまでした。でも、翔君の入学式、さぞかし可愛かったでしょうね。後で写真見せて下さい。おはぎも持ってきたので、おやつに食べましょうね」
美鈴さんは、がばっと起き上がった。
「それそれ!彩芽ちゃんのおばあ様のおはぎ!楽しみにしてたのよー。よし、今日もがんばるか」
気持ちが切り替わったのか、いつもの美鈴さんに戻ってきた。
しばらくは、美鈴さんのお母さんが家に手伝いに来てくれているらしいが、環境が変わって翔君も大変だろう。
「仕事のことはなるべく私に任せて、早めに帰ってあげて下さいね」
「ありがとうね」
美鈴さんと微笑み合って、今日一日の仕事の段取りを確認する。月曜日は何かと忙しい。定時で終われるように、二人とも仕事を開始した。
仕事に集中していると時間が経つのはあっと言う間だ。
「彩芽ちゃーん、おはぎ」
美鈴さんが甘えるように催促してきたのをきっかけに、お茶の時間を取ることにする。
役員の方々にもお茶を淹れるついでに食べていただくことにし、結城さんも今は副社長室にいるので、二人分を用意して、副社長室をノックした。