堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く

通いなれた石畳の道を急ぐ。今日は土曜日。

いつもなら土曜日はゆっくり休み、日曜日に『まつの』に行くのだが、気になって休む気にならない。

あの騒動から、六日が経った。

本当は週の途中に様子を見に行きたかったが、仕事が立て込んでいたので叶わなかった。

いつもならゆっくりと散歩気分で歩く道も、今日は気が急いて早歩きになる。

副社長が「その後どうなった?」と心配してくれたので、事の経緯を話したら、爆笑されてしまった。

この件を真剣に取り合ってくれる人は誰もいないらしい。

「ハハハ!タロウ、トキさんの所に居候してんのか!それは見たい、絶対に覗きに行こう」

もう笑いのネタだ。

いつものように土産物屋の前を通ると、おじさんに話しかけられる。

「彩芽ちゃん、また手伝いか?もうタロちゃんがおるから、お休みしたらいいのに」

ここでもタロちゃんだ!

「気になるので来たんですが、宮本さんはお会いになったんですか?あの、タロウさんに…」

みんなが〝タロちゃん〟と呼ぶので、呼び方に困る。もごもごと濁すような言い方になってしまった。

「この界隈では、もう人気者やで。真面目やし、よう気ぃつくし。タロちゃんがいてくれたら、防犯的にも安心や。この辺りは年寄りが多いから」

防犯的に安心ね。それはそうかもしれない。何と言っても見かけは武士だし。

嬉しそうに言う宮本さんと別れ、『まつの』へと向かった。

< 22 / 107 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop