堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く
通いなれた石畳の道を急ぐ。今日は土曜日。
いつもなら土曜日はゆっくり休み、日曜日に『まつの』に行くのだが、気になって休む気にならない。
あの騒動から、六日が経った。
本当は週の途中に様子を見に行きたかったが、仕事が立て込んでいたので叶わなかった。
いつもならゆっくりと散歩気分で歩く道も、今日は気が急いて早歩きになる。
副社長が「その後どうなった?」と心配してくれたので、事の経緯を話したら、爆笑されてしまった。
この件を真剣に取り合ってくれる人は誰もいないらしい。
「ハハハ!タロウ、トキさんの所に居候してんのか!それは見たい、絶対に覗きに行こう」
もう笑いのネタだ。
いつものように土産物屋の前を通ると、おじさんに話しかけられる。
「彩芽ちゃん、また手伝いか?もうタロちゃんがおるから、お休みしたらいいのに」
ここでもタロちゃんだ!
「気になるので来たんですが、宮本さんはお会いになったんですか?あの、タロウさんに…」
みんなが〝タロちゃん〟と呼ぶので、呼び方に困る。もごもごと濁すような言い方になってしまった。
「この界隈では、もう人気者やで。真面目やし、よう気ぃつくし。タロちゃんがいてくれたら、防犯的にも安心や。この辺りは年寄りが多いから」
防犯的に安心ね。それはそうかもしれない。何と言っても見かけは武士だし。
嬉しそうに言う宮本さんと別れ、『まつの』へと向かった。