堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く

着物を着付けてもらいながら、祖母がタロちゃんの修行を引き受けた訳を聞く。

「『まつの』は私とおじいちゃんが始めたお店だから、私たちがいなくなったらおしまい、それでいいと思ってたの。でも、タロちゃんが私のあんこを覚えたいと言ってくれた。タロちゃんが引き継いでくれたら、私のあんこはずっと残っていくでしょ?おばあちゃんも欲が出ちゃったの」

祖母は軽く言った。

祖母と祖父は、若いころ同じ和菓子屋で修行をしていて知り合ったと聞いている。そして、二人で独立して『まつの』を始めた。

祖母が京都の言葉を使わないのは、関東の出だからだ。和菓子の本場で修行をしたいと言って京都に出てきて、そのまま居ついた。

二人の一人息子である父は、店を継がなかった。今は役所に勤める公務員だ。そして、その一人娘である私もお店を手伝いはするものの、継ぐ予定はない。

祖母の気持ちを初めて聞いて、グッとこみ上げるものがあった。

「おばあちゃん。ごめんね。わたし…」

「違うの、違うの!お店を継いでほしい訳じゃないの。ただ、巡り合わせというのかな。たまたまタロちゃんが『まつの』にたどり着いて、わたしのあんこを習得したいと言ってくれた。それが嬉しかったの」

それだけなのよ、と優しく背中をさすってくれた。

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