堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く
会議室を出て、デスクに向かいながら美鈴さんが困ったように笑った。
「怯えた子猫ちゃんみたいな子だけど、意外とすぐに馴染んでもらえるかもしれないし。三人になれば確実に仕事の負担は減るだろうから、頑張りましょ」
「わかりました」
彩芽も大きくうなずいた。
秘書課に戻ると、新しく用意されたデスクにちんまりと御影さんは座っている。
体が細くて背も低いが、顔が驚くほど小さい。その中でおどおどとした眼だけがやたら存在感があった。
土鍋を用意するから入ってみる?と言いたくなるような子猫ぶりだ。
幸い、彩芽は猫が好きだ。なんとかして懐いてもらおうと心に決めた。
「御影さん、百合ちゃんって呼んでいい?私たちのことも名前で呼んでくれていいから」
まず、美鈴さんが優しく声をかけた。
「は、はい。お願いします…」
小さな体が、縮こまる。
「百合ちゃんは、神戸から通うの?」
負けじと彩芽も優しく声をかける。
「い、いえ。京都に引っ越してきました…」
さらに体が縮こまる。このまま消えてなくなりそうだ。
「一人暮らしを始めたのね」
「小さなころからお世話になっている家政婦さんが来てくれたので、一緒に住んでいます…」
武者修行なのでは?と、思わず突っ込みたくなった。
お世話をしてくれる人を連れて引っ越しとは、さすが『御影堂』のお嬢様だ。生活面で自立することは難しいと思うが、深窓のお嬢様を一人で送り出すことはできなかったのだろう。
「そ、そうなのね」
美鈴さんを見ると、表情は変わらないが引いているのがわかる。
これは、大変そうだと心の中で頭を抱えた。