堅物な和菓子王子は一途に愛を貫く
その後もお店は賑わった。
彩芽は余計なことを考えないようにして、ひたすら働く。タロちゃんも積極的に店に出て、シャカシャカと頑張ってくれた。
武士みたいなタロちゃんなのに、女性客は気楽に話しかける。
「お兄さんカッコイイ!」
横を通った時に、そんな言葉も聞こえてきて、彩芽の気持ちは沈む一方だった。
最近の若い人って積極的だ。彩芽も若い人だけれど、初めて会った怖い雰囲気の人に気軽に「カッコイイ」なんて言うことはできない。
タロちゃんは言われ慣れているのか、意外とうまくあしらっていた。
仕事中、時折タロちゃんの視線を感じることがあったが、見ないようにする。今、何か言うと嫌味を言ってしまいそうだ。
『タロちゃん、モテモテでいいね』なんて、言ってしまったら最悪だし。
夕方、客足も落ち着いてきた頃、二人連れの女性客が入ってきた。
きゃあきゃあ言いながら席につき、メニューを見ながら「どれにする?迷っちゃう」と、とてもにぎやかだ。
結局、「宇治金時。白玉とアイスクリームとミルクをトッピングで!」と、二人ともてんこ盛りのかき氷を選び、「楽しみー」と喜んだ。
そんな風にはしゃいでもらえるといつもなら嬉しいのだが、宇治金時の注文がダブルで入ると、タロちゃんと横に並んで抹茶を点てないといけない。華やかで綺麗なお客様を見て、またちょっと気持ちが落ちた。
出来上がったかき氷を持って、お客様のもとへ向かう。タロちゃんも抹茶隊として一緒に来てくれた。
二人並んでシャカシャカしていると、案の定「お兄さん渋くて素敵!」と声がかかる。
「ありがとうございます」
薄笑みを浮かべて、タロちゃんは答えた。
「きゃあ、声も素敵!」
お客様はさらにはしゃいだ。
「ねえねえ、お二人はご夫婦ですか?」
興味津々という感じで質問がくる。
「いえ…」
「違います。この方はここのお嬢さんで、私は修行をしている身です」
やんわりと否定しようとした彩芽の言葉に被せるように、タロちゃんが堅く言い切った。
「えー、そうなんだ。じゃあお兄さん彼女いる?いないなら立候補しようかな」
「決まった人はいませんが、自分はまだそんなことをしている場合じゃないんで」
軽い感じで言うお客様に対して、あくまでも真面目にタロちゃんは答えていた。
「お兄さん、堅ーい!」
ケラケラとお客様は笑った。
彩芽は出来上がった抹茶をかき氷にトロリとかける。
「キャー!すごーい」
最後まで賑やかにお客様は喜んだ。
『お茶を点てるときは穏やかな気持ちで、無心に点てるんですよ』
お茶の先生の言葉を思い出す。すみません、先生。今回は程遠い気持ちで点ててしまいました。
心の中で詫びながら、彩芽は奥に戻った。